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執筆者の写真藤堂真也

形態スタディ どうやって形態を生み出していったか

[設計コンセプトの記事]でお話ししたようなコンセプトや形態は、パビリオンのような小規模建築物においても一朝一夕にデザインされるものではなく、様々な過程を経て生み出されています。この記事では、デザインが生み出された過程についてお話ししようと思います。


2月初旬 学科内コンペ提出

コンペ自体の募集は去年の11月くらいからあったように思いますが、僕は当初あまり関心がなかったので傍観していました。ところが2月上旬の、コンペ締め切り当日の朝に急にやってみたいと思い立ち、そこからアイデア練りと図面作成と資料作成を突貫工事で行いました。


コンペに提出した資料の一部


これがコンペで提出した案です。このコンペ案では水平に張ったボロノイ膜体が複数枚、厚みと分割の密度にバリエーションを持ちながら重なっているものを提案しました。この時点では[設計コンセプトの記事]でお話しした3つのコンセプトはぼんやりと考えている程度でした。

膜体の材料・構法に関しても、オーガンジーとワイヤーで構成するイメージがある程度で、具体的な方法はまだ不透明でした。


2月下旬 コンペ案の選出

コンペ案の選考に先立ち、コンペ案に対し学科の教員の方々にコメントを頂いたり、提出者を含む学生でディスカッションをしたりして、ぞれぞれの設計案への理解を深めました。

非常に面白い案が他にもありましたが、ありがたいことに僕の案を選んで頂きました。


2月下旬 チームメンバーとの相談

学科4年有志でパビリオンチームが編成され、そのメンバーで僕のコンペ案をもとにしてブレスト的に議論がなされました。その結果、複数の膜体を重ねて場のバリエーションを作るのではなく、一枚の不均一な膜体を用意することで様々な体験を生み出すという方向になりました。


スケッチの一部


3月上旬 形状のスタディ開始

チームでの議論をもとに、場所によって厚みや高さの違う膜体による構成の検討を始めました。

模型を作りながらどんな全体形状にしようかスタディしようとしたのですが、膜構造の模型を作るのは初めてだったので何で作るかが問題でした。100円ショップで様々な伸縮性のある素材を購入し試作しました。試行錯誤の結果、伸縮性のある古いシャツを何枚か裂いて、それを模型材料とすることにしました。


頂点位置や高さを変えるなどしてたくさんの模型を作り、膜構造における造形のルールを探りました。


シャツを裂いて膜構造の模型を作りました


人が入った際のアクティビティと、膜体の高さや厚みの関係を考えるため、少し大きなスケールの模型を、棒材でボロノイ膜を編んで作ったりもしました。


スケール大きめの模型を木材で作り、人の入り方を検討


またスタディの早い段階で構造や構法、材料の先生にエスキスをしていただき、形の成り立たせ方や施工方法などをイメージしながら形状のスタディを進めていきました。


3月下旬 概形設計完了

構造の解析手段や材料や施工方法の検討も進み、いよいよ本番で建てる具体的な形状の検討に入りました。

構造班が作ってくれたRhino/Grasshopperのモデリングシミュレーションのファイルを利用し、柱位置や高さ、網の張り方などを細かく変え、見え方を確認しながら検討をしました。


3Dモデルで形状のスタディ


同時にたくさんのスケッチも描き、どんな形態を美しいと思うのか考えていきました。


平面形状の初期スケッチ


締め切りのギリギリまで考え、ここで膜体の全体形状が確定しました。


4月上旬 構造班とのやりとり

僕が確定した膜体の全体形状を前提として、構造班が構造的に成り立つボロノイ分割の検討を始めました。100個程度のボロノイ母点の配置を変えながら様々なパターンを示してもらい、ボロノイ網の分割について僕が細かな注文を出す、という感じでに対話をする様にボロノイ分割の検討がなされました。(詳しくは構造班による記事「構造 コンセプトから解析まで」をご覧ください)


ボロノイ分割について構造班とやりとりしながら設計


またこの頃には材料や施工方法の検討も進んでいました。実物大の部分モックアップを検討中に有力だった材料と施工方法で作ったのですが、精度や見え方に問題があることがわかり、ボロノイ膜体の設計においても一部変更を加えるなどしました。一方通行の設計プロセスではなく、意匠・構造・材料・構法が互いに対話をしながら設計が進んでいきました。


4月中旬 基本設計完了

以上のような過程を経て、基本設計が完了し、全ての部材のサイズや個数が確定しました。

僕たちが普段の設計演習で描いている図面はここまでです。


基本図面 立面図


基本図面 平面図


同時に、進んでいた材料や施工方法の検討も終着が見え始めました。あくまで全体形状や位置関係を示したものである基本図面に対し、ワイヤーの切り出しの長さやカシメ接合の方法、布の切り出し方や取り付け方の詳細を説明した施工マニュアルも用意しました。


詳細設計の検討


このあたりの詳細はぜひ以下の記事をお読みください。



振り返って

以上が今回のパビリオンの形が生み出されてきた流れです。これは主に意匠の観点から注文をつけていた僕の視点で描かれていますから、構造など他の視点から見ると少し違って見えるでしょう。(様々な関わり方をしたメンバーがそれぞれ記事を書いていますので、是非ご覧ください)


上でも少し書きましたが僕たちが普段、学科の設計演習で考えているのはあくまでも「空想」です。今回実際に建てるパビリオンという「本物」を考えるにあたり、いつもゴールにしていた基本設計のその先があり、そしてそこがとても面白いことを学びました。


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