網を何で作るのか
ワイヤーによる擬似膜構造
構造の検討で考えた網のモデルを、さて実際に作ろうとすると、いったい"何で作ろうか"という問題に直面します。モデルと全く同じ太さ0の理想的な(数学的な)線分を使うわけにはいきませんので、コンペでデザイン案が選ばれた2月ごろから、いろいろな素材と接合方法を試しました。
モックアップによる検討
選ぶための基準は、強度、施工性、美観の3点でした。なんと言っても、300枚で200m²もの布を空中に吊り上げなければなりませんし、それらが風にあおられても壊れない強度が必要です。また、施工に時間がかかったり、特殊な技能や機械が要求されたりするやり方はできません。しかも、デザイン性を損なうような格好悪い外観もNGです。
紐、ロープ、3Dプリンター、針金など多種多様なモックアップを経て、最終的に選ばれたのはステンレスワイヤーでした。建設現場で荷物を吊ったり、看板の吊り下げやネットの固定に使ったりと、建設業界で日常的に使われる資材です。
施工の様子
施工しやすい仕組み
作成した施工マニュアル
ワイヤーをスリーブに通し、圧着するだけの簡単な収まりでありながら、高い強度と施工精度が出せるように工夫しました。施工に際しては、誰でも作業できるよう手順を整理し、負担を軽減させています。感染対策をしながらの施工になるため、屋外作業ができるように留意し、また人数制限に対応した工程の短縮が強く求められました。
擬似膜構造の様子
このように、網の素材ひとつをとっても、デザインチームからは美しく収まることが、構造チームからはモデルと同様の挙動をすることが、施工チームからは現実的な労力で完成できることが、それぞれ要求されます。さらに、構法チームの他の検討事項、例えば布の素材や取り付け方法とも、密接に関係しています。こうした各方面の要求を満たせるような素材・組み立て方を選ぶ作業は、実際にモノを作り上げるうえで避けて通れない重要なプロセスです。
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