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  • 執筆者の写真割鞘 奏太

構造 コンセプトから解析まで

更新日:2021年5月15日

構造コンセプト

ボロノイ状(※1)のワイヤー網は、きわめて密度が低く、それでいて密度が不均一な膜とみなすことができます。母点が疎な部分はワイヤーが少なく柔らかい膜となり、母点が密な部分はワイヤーが多く硬い膜となるのです。

通常、膜構造は張力が均一な「等張力膜」になります。では、ボロノイ網のように密度が不均一な膜の場合はどうでしょうか?「非等張力膜」構造を再現できるのではないでしょうか?


(※1)ボロノイ:ある距離空間上の任意の位置に配置された複数個の点(母点)に対して、同一距離空間上の他の点がどの母点に近いかによって領域分けされた図のこと


Grasshopperによるコーディング


構造の検討はRhino/Grasshopperを用いて行いました。拡張機能であるKangarooを使用すると、物理シミュレーションをすることができ、さらにK2Engineeringを併用することでGrasshopper上で構造解析を行うことができます。(デジファブの記事へ)


形態解析

すべて同じ太さのワイヤーを使用するため、ワイヤーにかかる張力がなるべく均等になるようボロノイの形態を操作しました。

約100個の母点を、外周部では密に、中央付近では疎に配置しました。大きな張力がかかる外周部を硬い膜にするためです。そこから母点の位置を微調整し、その都度ワイヤーの張力分布を確認する作業を繰り返します。

さらに、隣り合うワイヤーが直線的にならない方がよいという意匠面の要請や、各ワイヤーが100mm以上でないとワイヤーどうしを接合できない、という施工面の要請を同時に満たさなければならなかったため、このプロセスは多目的最適化といえるでしょう。


初期形態

最終形態


画像上が初期形態、画像下が最終形態です。青色が引張、赤色が圧縮、緑色が中立の部材で、線の太さが応力の大きさを表しています。初期形態では緑色のワイヤーも見られますが、最終形態ではすべて青色になっています。また最終形態では、途中の形態と比較するとワイヤーの最大張力が約15%軽減されました。


風荷重

本設計では、短期荷重として風速10m/sの風荷重を想定しました。このとき、パビリオンにはどれくらいの大きさの力がかかるでしょうか?

風速34m/sのとき、約100kgf/m2の風圧が発生します。風圧は風速の2乗に比例するため、風速10m/sのときの風圧は、100[kgf/m2]*10[m/s]^2/34[m/s]^2=9[kgf/m2]となります。

このパビリオンは隙間の多い姿をしているため、実際にはこれよりも小さな荷重がかかるはずです。ここでは0.5倍に軽減した4.5kgf/m2を吹下げの向きに加えました。膜を外側からケーブルで引張って支える構造なので、吹下げの力が加わるとケーブルが辛く、吹上げの力が加わるとケーブルが楽になります。そのため吹上げの検討は省略することができます。


風荷重による変形


この風荷重が作用したときの、ワイヤー、柱、アンカー、そしてそれぞれの接合部の応力が、それらの許容応力を下回ると安全であるといえます。柱は座屈がクリティカルになるので注意が必要です。


アンカーはもともとコンクリートのみの計画でした。しかし、アンカーには上向きの力と横向きの力が同時にかかるため、コンクリートの重さで上向きの力に抵抗し、その余力で十分な摩擦力を生み出す必要があります。結果、コンクリートのみで抵抗しようとすると全部で約3.6tになってしまいます。こんな量では到底施工できません。


そこで、ペグをスパイクのように併用することでそれぞれの弱点を補い合っています。ペグが上向きに引き抜かれるのをコンクリートが抑え、コンクリートが滑るのをペグが抑えるのです。


アンカー 見えづらいですがコンクリートにペグが刺さっています

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