今年のパビリオンは一言で表すと「林立するオーガンジー布からなるボロノイ膜体」になります。この形態がどのような意図を持ってデザインされたものか、この記事ではお話しします。
ボロノイ膜体を吊り下げたパビリオン
このパビリオンのコンセプトは①コロナ禍パーティションからの連想、②水中のような体験、③建築の「モノ性」と「ハコ性」の狭間、の3点です。
①コロナ禍パーティションからの連想
コロナ禍の中で、私たちの日常生活の空間は今やアクリル・パーティションで細かく分割されてしまっています。レストランでも教室でも、、、隣の人との間には壁が立ってしまっていて、なんとも息苦しい、溺れているような毎日です。
このような状況で作り、楽しんでもらう(当初は五月祭が例年通りに開催される可能性も考えていました)パビリオンを設計するにあたり、このパーティションをデザインの種とすることで、この息苦しい日常を明るく捉え直せるような、このような日常の中に楽しいことを発見できるような、そういう体験を生み出せないかと考えました。
そのようなことを考えている中で思いついたのが「ボロノイ図」です。ボロノイ図とは、ランダムに与えられた点(母点)群に対し、それぞれの間の点に描かれた二等分線を連結してできる網の目のような図形です。「点と点の間に引かれた線」が「人々を分割するパーティション」に通ずると考えました。
ボロノイ図
人々が半透明な面材で区切られたボロノイ小部屋に入り、景色や他の人を見ると、それは普段とは違う視覚体験になることでしょう。また上を見上げるとボロノイに区切られた空が見え、下を見下ろすと地面にはボロノイ形に影が落ちることでしょう。このボロノイ=パーティションがあるからこその新しい見え方や景色がある、そのように感じていただけたら嬉しいと思います。
②水中のような体験
パビリオンとは仮設の建築物です。常設じゃないからこそ、一般に建築物には用いられない素材を使ってみたいという思いがありました。そこで今回採用したのは「オーガンジー」です。オーガンジーとはドレスなどで使われる、光を通すほど薄く光沢のある布です。オーガンジーからなるボロノイ膜体は水のような透明感ときらめきを持つものとなるでしょう。
光を受けきらめくオーガンジー
水のイメージ
膜体はあるところでは高く持ち上がり、あるところでは低く下がります。高い部分では膜体の厚みは薄くなり、低い部分では厚くなっています。また高いところではボロノイ分割は細かいものとなり、低いところでは大きな分割となります。
高く持ち上がった箇所ではボロノイ膜体は屋根のように振る舞います。下から見上げたとき、薄く細かい膜体は、光を受けてきらめく水面のように見えることでしょう。
一方低く下がった部分ではボロノイ膜体は厚くなり、一つ一つの小部屋も大きなものとなります。ボロノイ膜体の中から見たときの、オーガンジーの重なりが産む濃淡のある景色は、水中に潜ったときの景色に感じられるのではないでしょうか。
立面図
平面図
③建築の「モノ性」と「ハコ性」の狭間
建築には彫刻的な物体としての価値「モノ性」と、内側に空間を作る機能としての「ハコ性」の二面があると考えています。
それ自体が鑑賞対象となる「モノ性」と場を提供する「ハコ性」、どちらも等しく重視される要素です。今回のパビリオンでは両者が表裏一体となる形態設計を目指しました。
膜体が屋根として振る舞う部分があったり(ハコ性)、膜体自体に入り鑑賞する部分があったり(モノ性)、、、膜体全体としてハコ性を持つのか、それぞれのボロノイ小部屋としてハコ性を持つのか、その二面性があると言ってもいいかもしれません。ボロノイ膜体の形態にそのような面白さ持たせられないかと思い設計をしました。
場所によって多様な在り方を表現できないか模索しました
「ボロノイ図」というモチーフにも「ハコ性」「モノ性」の議論につながる部分があると思っています。ボロノイ図は図としては現れない母点の存在が強く示唆されている図形です。区切っている線自体も、線のが区切る空白部分も、どちらも意識されるボロノイ図は、「ハコ性」「モノ性」を兼ね備えたいというパビリオン設計コンセプトにも適したモチーフと言えるのではないでしょうか。
ボロノイ図
以上の3つがコンセプトの柱です。
形態の設計は学科内コンペで選ばれた案をもとに、意匠的観点だけでなく構造性能や施工方法、材料選定など本当に様々なことを考えながら、チームの皆で進められました。
それらについての記事もまとめてありますので、ぜひご覧ください!
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